「マリカー」の商標登録について

「マリカー」とは、任天堂の人気レーシングゲーム「マリオカート」をイメージさせる登場キャラクターのコスプレと、公道を走行するカートのレンタルサービスを行っているマリカー社が、「車両の貸与」等を指定役務として平成28年6月に登録したものです。 これに対し、任天堂は、登録に対して異議を申し立て、ゲーム分野において「ドラゴンクエスト」を「ドラクエ」、「ポケットモンスター」を「ポケモン」、といったように省略することが通常にあり、「マリカー」は「マリオカート」の略称にあたると主張しましたが、「マリカー」の名称が周知とは言えないとして平成28年2月に異議が却下されました。 「フランク三浦」と「マリカー」は、ともに商標法により争われたものです。そのため、「フランク三浦」については、不正競争防止法などで再度争われる可能性がありますし、「マリカー」については、すでに不正競争行為および著作権侵害行為にあたるとして東京地裁に提訴されているようです。 この両問題や、前回の「PPAP」問題、それに、以前のメルマガでご紹介した「面白い恋人」など、商標に関して大きく取り上げられるニュースに共通するのは、大手企業の商標や著名な商標のパロディや、これらの商標のネームバリューにただ乗り(フリーライド)しようとするものです。 確かに、新しい商品やサービスの名前を考えるうえで、誰もが知っている名前や、それをイメージできるパロディを使いたいといった気持ちは分かります。また、大きくニュースに取り上げられることはチャンスなのかもしれません。 また、今回の「フランク三浦」・「マリカー」や「面白い恋人」については、現時点での商標の使用は認められたため、この限りでは、パロディ商標は問題ないようにも見えます。 しかしながら、ひと度侵害にあたる(商標が類似する)と判断された場合の企業のイメージダウンや損害賠償責任などのリスクは計り知れません。

「フランク三浦」の商標登録について

新聞やテレビなどの報道でご存知かと思いますが、高級時計「フランクミュラー」のパロディ時計の名称「フランク三浦」の登録を無効とする決定を取消す(登録を認める)判決が、最高裁判所が出されました。  これまでの経緯ですが、商標「フランク三浦」は一旦登録になりました。  これに対し、「フランクミュラー」側がこの登録を無効とする審判を請求し、これを認める審決が特許庁にて出ました。  今度は、「フランク三浦」側から、この審決を取消する訴訟が、知財高裁に提起され、登録無効を取消す決定がなされたため、「フランクミュラー」側が上告をしておりました。  そして、この度、最高裁にて上告が棄却され、「フランク三浦」の登録を認める決定が確定しました。  判決では、「フランクミュラー」と「フランク三浦」とが非類似であるから、「フランク三浦」の登録を認めるというもので、高級時計「フランクミュラー」の外形、文字盤等を似せたパロディ時計を販売すること自体が認められたものはでありません。報道だけを見ていますと、その点、勘違いしてしまいそうです。  商標の類否は、「読み」、「外観」、「意味合い」の3つの要素から判断されます。  裁判では、「読み」が類似するものの、商標の外観については明確に区別し得るものであり、「意味合い」についても,「三浦」という日本との関連を示す語が用いられ、外国の高級ブランドであるフランクミュラーとは大きく異なると判断されました。  そして、「フランクミュラー」が100万円を超える高級腕時計であるのに対し、フランク三浦」が4000円から6000円程度の低価格時計であるた、指向性を全く異 にするものであって,取引者や需要者が,双方の商品を混同するとは到底考えられないとされ、取引の実情も勘案されました。  このように、商標登録では、商標(名称)の対比だけでなく、取引の実情も勘案されますので、「読み」が近い登録商標があって、登録を諦めていても、需要者が混同しないという実情を主張することで、登録させるチャンスがあります。  なお、この度の裁判は、商標法により争われたものですが、パロディ時計を今後売り続けられるか否かは、不正競争防止法などで争われることが予想されます。  もっとも、判決にもあるように、100万円を越える高級時計「フランクミュラー」と4000円から6000円程度の「フランク三浦」とでは需要者が異なるため、これ以上の裁判は提起されないのかも知れません。

最近話題の「PPAP」の商標問題について

みなさんは「PPAP」という言葉をご存知でしょうか。 「PPAP」は、芸人「ピコ太郎」(古坂大魔王)氏による歌のタイトルです。ペン-パイナップル-アップル-ペン(Pen-Pineapple-Apple-Pen)それぞれの頭文字をくっつけたもので、米国のジャスティン・ビーバーがこの歌を面白いとする投稿をtwitterに呟いたことで、世界的に知れ渡ることになりました。 最近、この「PPAP」が、古坂大魔王氏が所属するエイベックス・グループHD社より先に、第三者によって商標登録出願されたことがニュースやワイドショーで話題になっています。 「PPAP」を出願したのは、ベストライセンス社という大阪の会社です。 ベストライセンス社は、出願印紙代を支払わずに大量の商標を出願して、却下される前に、分割出願して延命を図り、正当に商標登録しようとする者の邪魔になったり、特許庁の業務を圧迫したりしていることで、業界では以前から有名な会社です。 私どもも、お客様から商標登録のご依頼をいただき、調査を行っている中で、度々、ベストライセンス社の出願が検索されるため、その存在と手法を数年前から把握していました。 無駄なことを大量に行っているように見えますが、そのビジネスモデルは、出願した商標を使用している者にライセンス契約を持ち込み、利益を得るというものです。大量の出願は、そのための布石です。 「PPAP」は、ベストライセンス社が2016年10月5日に出願しています。 エイベックス・グループHD社の出願日が10月14日で、ベストライセンス社の最初の出願から9日後と、一足違いだったようです。 おそらく、ベストライセンス社の出願の存在をエイベックス・グループHD社は知らなかったと推測されます。ベストライセンス社の出願が公開され、その存在を知ったときには驚いたのではないでしょうか。 「PPAP」はあまりに有名であるため、ベストライセンス社の出願は、仮に出願印紙代が支払われていても、特許庁の審査にて拒絶されるものと考えられます。 これは、商標法では、基本的に、先に出願した者を優先的に登録する先願主義を採っていますが、他人の有名な会社名,マーク,商品名,営業表示を無断で使うことによって、著名性にタダ乗りするような行為(フリーライド)を禁止しているためです。 しかし、これは本件のように、出願した商標が既に著名性を獲得している場合といった特例的なもので、単に以前から使用しているだけといった場合や、一部の業界ではメジャーでも、特許庁の審査官が知らないような商品やサービスを表す名称であれば、登録になる可能性があります。 一旦登録になっても、商標登録を取り消す手段(前号メルマガの知財講座「登録異議申立・無効審判について」をご参照ください。)はありますが、大変な労力が掛かりますし、取り消せない可能性もあります。 そうなれば、今まで使用していた屋号や商品名が使用できなくなり、また、パンフレットやチラシ、パッケージ、看板などは全て破棄などという事態にもなりかねません。 「PPAP」のように著名性を得た場合を除くと、以前から使用している商標を、今後も安心して使用し続けられるようにするためには、やはり、いち早く商標登録しておくことが大事であることには変わりありません。 本件に関して、ご心配な点、ご不明な点等ございましたら、どうぞ気軽にお問い合わせください。

『新しいタイプの商標の保護制度について』

平成27年4月1日より施行された改正商標法により、商標の保護対象が拡充しました。 具体的には、これまでは、文字、ロゴタイプ、図形(マーク等)、立体的形状が商標法の保護対象でしたが、この改正で、以下に示す5つの商標が新しく追加対象となりました。 (1)動き商標 文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。 例えば、テレビやコンピューター等に映し出される変化する文字や図形などです。 (例)映画の開始時に、サーチライトの光線と共に、移動しながら映し出される「20th Century Fox」の文字。20世紀フォックス社(米国登録) 出願には、 (a)動きが理解できるように、動く部分の軌跡を付けた図を1枚付けます。 (b)パラパラ漫画のように、異なる複数の図を付けます。 (2)ホログラム商標 文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。 見る角度によって変化して見える文字や図形などです。 (例)クレジットカードに貼られたホログラム。アメリカンエキスプレス社(米国登録) 出願には、見る角度によって変化する複数の図を商標見本とします。 (3)色彩のみからなる商標 単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標です。 例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩などです。 (例)青色、白色、黒色による3本の横縞模様。トンボ鉛筆(欧州登録) 出願には、色彩を表示した図を商標見本とします。 (4)音商標 音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。 例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などです。 (例)「ヒ・サ・ミ・ツ♪」久光製薬(欧州登録) 出願には、 (a)五線譜で表現します。 (b)音の種類や音の長さ、音の回数、音の変化などを文字により記載します。 (c)音声ファイルを堤出します。 (5)位置商標 文字や図形等の標章であって、商品等に付す位置が特定される商標です。 出願には、商標の位置を特定する部分以外が点線にて描かれた物品を商標見本とします。 (例)赤い裏地の靴。クリスチャン・ルブタン社(米国登録)                            →詳細はこちら(特許庁)

『悪意の商標出願について』

最近、海外に進出しようとしたが、自社が使っている商標が既に他国で商標登録されてしまっており、対処に苦労しているという事例が増えてきているように感じます。  以下、このような事例の対応策等について意見を述べます。 (1)。他人の商標が登録されていないことを利用して、第三者が 不正な目的で当該商標の登録出願をすることを悪意の商標出願といいます(適切かは疑問ですが、冒認出願と呼ばれることもあります)。 例えば、中国での無関係な第三者による「YONEX(図形)」、「無印良品」「MUJI」、「(クレヨンしんちゃん図形)」の商標登録が挙げられます。  悪意の商標出願は、一攫千金のための投資と捉えて個人が行う場合も多々あるようです。特にインターネットの普及により、個人でも容易に外国の商標・ブランドの情報を入手できるようになったことが背景にあります。  一旦商標登録されてしまうと、それを取消したり無効にするには多額の費用と手間がかかります。しかし、これを諦めて安易に商標権の買い取りを希望すると、足下を見られて過大な金額を支払う結果となるおそれがあります。 (2)これは各国共通の問題です。そこで、日本国特許庁は、日米欧中韓の商標五庁(TM5)の協力枠組みにおいて、「悪意の商標出願対策プロジェクト」を主導・推進しております。  このプロジェクトでは、悪意の商標出願に関し、各庁の制度・運用の情報交換を行うとともに、ユーザーに対してこれらの情報提供を行うことを目的として活動しております。  このような国際的な取り組みの他、日本国特許庁は、平成28年度より、海外での悪意の商標出願に関して、異議申立や無効審判請求、取消審判請求などの、登録の取消・無効にするための費用の一部を助成する制度を設けております(補助率:2/3、補助上限枠:500万円) (3)以上は、外国における悪意の商標出願の問題です。  一見すると国内ではあまり問題になっていないようですが、実はかなり深刻な問題が生じています。  近年、ある個人・特定の企業により、他人の商標の先取りとなるような出願が大量にされています。  上位2者による平成27年の出願数は年間約1万4千件以上で、日本全体の出願件数の約1割がこの2者による出願です。  このような出願が大量にあるため、たまたまこれらの出願と類似する商標を出願した場合、先の出願の審査結果を待つ必要があり、商標登録されるまでの時間がかなりかかってしまいます。しかも、さらに分割出願をして延命を図っている場合もあり、かなりの大迷惑です。  なぜこのような大量な出願が可能かというと、出願時の手数料(印紙代)を支払っていないからです。制度上、出願時の手数料を支払っていないからといって直ちに出願が却下されることはなく、救済のため一定の期間内に納付する機会が与えられます。このような制度が悪用されています。 (4)しかし、そもそも商標法の目的は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」にあります(第1条)。  事業者が様々な思いを込めて採択した商標を自己の商品・サービスに使用し、少しでもその価値を高めようと努力をし、それにより蓄積された信用を保護するのが本来の商標制度といえます。それを当初から全く予定しておらず、商標法の趣旨を逸脱するような商標登録出願は排除されるべきです。  上記の大量出願は、いずれにせよ手数料不納で出願却下されます。また、納付された場合でも、自己の業務に係る商品・サービスについて使用する商標ではないとして拒絶される可能性がありますし、その他の条項により拒絶される可能性があります。  特許庁も、「仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。」との呼びかけをしております。